ADHDの症状緩和:治療薬の効果と選び方

監修者紹介
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター

1.ADHDの脳内の神経物質調整と薬物療法

1.ADHDの脳内の神経物質調整と薬物療法


 注意欠如・多動性障害(ADHD)は、主に幼少期に発症する神経発達障害の一つです。
この障害は、脳内の神経伝達物質(特にドーパミンやノルアドレナリン)の不均衡に関連していると考えられています(Biederman & Faraone, 2005)。

 ADHDの特徴については以下の記事で詳しく解説しています。併せてお読みください。

ADHD(注意欠如・多動症)の特徴について



ADHDの特性を緩和する薬の種類

 ADHDの症状を緩和するための主要な薬物治療は、主に以下の2つに分類されます:

1. 中枢神経刺激薬
脳内のドーパミンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらの神経伝達物質の機能を増強することで、ADHDの主要な症状を緩和します(Faraone, 2008)。また、アンフェタミン系と分類される薬剤も、ドーパミンおよびノルアドレナリンの活動を増加させる作用があります。


2. 中枢神経非刺激薬
ノルアドレナリン再取り込み阻害薬として機能し、特に注意の問題に効果があるとされる薬剤があります(Michelson et al., 2001)。また、α2アドレナリン受容体に作動して、主に衝動性や過度な活動性を減少させる薬剤もあります(Connor et al., 2008)。


薬の副作用と個人差

 すべての薬物治療に、副作用の可能性があります。ADHD治療薬も例外ではありません。

・中枢神経刺激薬
最も一般的な副作用は、食欲減退、不眠症、心拍数の増加、血圧の上昇などです。また、一部の患者では不安や過度な興奮を感じることがあります。

・中枢神経非刺激薬
ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の場合、胃の不調、頭痛、睡眠障害などの副作用が一般的です。α2アドレナリン受容体作動薬は、低血圧や眠気の原因となる可能性があります。

個人の体質や他の服用している薬、生活習慣などによって、副作用の発現は異なります。したがって、医師としっかりとコミュニケーションをとることが、極めて重要です。



二次障害を防ぐ薬物療法とTMS

 ADHD患者は、うつ病や不安障害といった他の精神的健康の問題を持つリスクが高まります(Barkley et al., 2006)。
これらの症状の発症を抑えるため、主治医によって抗うつ薬や抗不安薬の併用が推奨される場合があります。
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)についての ADHD への有効性については研究がなされていますが、現在のところ明確なエビデンスが出ているとは言えません。

近年の研究で、経頭蓋磁気刺激(TMS)が ADHD の治療法として効果的である可能性が浮上してきました(Cortese et al., 2017)。
現在のところ日本では中等度のうつ病に対し保険適応が行われております。

最近、rTMS が様々な疾患に効果があると謳い高額な治療へと誘導する情報が多くみられますが、慎重な治療選択が大切です。

TMS は、磁場を使用して脳の特定の部分を刺激するもので、これにより神経細胞の活動を改善し、症状を軽減するとされています。







ADHDの特性を緩和する薬の種類の表







文献リスト:
・Biederman, J., & Faraone, S. V. (2005). Attention-deficit hyperactivity disorder. The Lancet, 366(9481), 237-248.
・Faraone, S. V. (2008). Using Meta-analysis to Compare the Efficacy of Medications for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Youths. P&T, 33(12), 710-716.
・Michelson, D., Faries, D., Wernicke, J., Kelsey, D., Kendrick, K., Sallee, F. R., & Spencer, T. (2001). Atomoxetine in the treatment of children and adolescents with attention-deficit/hyperactivity disorder: A randomized, placebo-controlled, dose-response study. Pediatrics, 108(5), E83-E83.
・Connor, D. F., Glatt, S. J., Lopez, I. D., Jackson, D., & Melloni, R. H. (2008). Psychopharmacology and aggression. I: A meta-analysis of stimulant effects on overt/covert aggression–related behaviors in ADHD. Journal of the American Academy of Child &Adolescent Psychiatry, 47(3), 198-210.
・Barkley, R. A., Fischer, M., Smallish, L., & Fletcher, K. (2006). Young Adult Outcome of Hyperactive Children: Adaptive Functioning in Major Life Activities. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 45(2), 192-202.Young adult outcome of






2.ADHDの治療薬について

2.ADHDの治療薬について


 注意欠如・多動性障害(ADHD)は、多くの患者が日常生活で直面する課題を乗り越えるためのサポートとして、治療薬を必要とする疾患の一つです。

本稿では、ADHD治療の現行薬について詳しく探るとともに、それぞれの薬剤の特徴や選択のポイントについて解説します。


ADHD治療薬とは

 ADHD治療薬は、主に患者の注意力の向上、衝動性の抑制、過度な活動性のコントロールを目的として処方されます。
これらの薬物は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで効果を発揮すると考えられています(Biederman & Faraone, 2005)。


各薬剤の特徴と解説

1. 中枢神経刺激薬:

メチルフェニデート:
よく知られている例として「リタリン」があります。この薬は、脳内のドーパミンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらの神経伝達物質の濃度を増やすことで作用します(Faraone, 2008)。

アンフェタミン系:
「アダラール」や「ビバンス」はこのグループに属します。メチルフェニデートに加え、これらの薬もドーパミンおよびノルアドレナリンの活動を増強します。


2. 中枢神経非刺激薬:

アトモキセチン: 「ストラテラ」として知られるこの薬は、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害します(Michelson et al., 2001)。

α2アドレナリン受容体作動薬: 「グアンファシン」や「クロニジン」は、主に神経の興奮性を減少させることでADHDの症状を緩和します(Connor et al., 2008)。



ADHDの治療薬の種類





ADHD治療薬の選択とクリニックでの処方

 治療薬の選択は、患者の年齢、症状の重度、他の疾患や薬物との相互作用など、さまざまな要因を考慮して行われます。
通常は、最初に最も一般的で効果的な薬を処方し、それから医師が必要に応じて調整を行う場合があります。

さらに、医師や薬剤師とのコミュニケーションは極めて重要です。症状の変化、副作用、その他の懸念事項を医師や薬剤師と共有することで、最も適切な治療方針を決定することができます。

また、多くのクリニックでは、薬物治療だけでなく、心理教育や行動療法といった非薬物療法との併用が推奨されることもあります。
これにより、患者はADHDの症状をより効果的に管理するためのスキルや戦略を学ぶことができます。





文献リスト:
・Biederman, J., & Faraone, S. V. (2005). Attention-deficit hyperactivity disorder. The Lancet, 366(9481), 237-248.
・Faraone, S. V. (2008). Using Meta-analysis to Compare the Efficacy of Medications for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Youths. P&T, 33(12), 710-716.
・Michelson, D., Faries, D., Wernicke, J., Kelsey, D., Kendrick, K., Sallee, F. R., & Spencer, T. (2001). Atomoxetine in the treatment of children and adolescents with attention-deficit/hyperactivity disorder: A randomized, placebo-controlled, dose-response study. Pediatrics, 108(5), E83-E83.
・Connor, D. F., Glatt, S. J., Lopez, I. D., Jackson, D., & Melloni, R. H. (2008). Psychopharmacology and aggression. I: A meta-analysis of stimulant effects on overt/covert aggression–related behaviors in ADHD. Journal of the American Academy of Child &Adolescent Psychiatry, 47(3), 198-210.




3.ADHD薬の副作用と長期服用の影響

3.ADHD薬の副作用と長期服用の影響

 ADHDの薬は多くの方々にとって、日常生活をより快適に過ごすための大切な支えです。

しかし、副作用や長期服用の影響に関する疑問や懸念が生じることもあるでしょう。
以下では、そういった点についてわかりやすく説明します。


薬物依存のリスクと対策

 ADHDの薬(特に刺激薬)は、適切に使用される場合は非常に効果的ですが、乱用すると依存のリスクが考えられます。
実際に、一部の研究では ADHD の刺激薬の乱用に関する報告がなされています(Biederman et al., 2006)。


対策:
正しい情報の獲得: 医師や薬剤師からの指導をしっかり受けることは、安全な薬の利用の第一歩です。

薬の管理: 他人がアクセスできない場所に薬を保管することで、乱用のリスクを低減できます。

定期的な診療: 定期的に医師のもとで症状や薬の効果を確認し、必要に応じて調整を行うことが大切です。




薬物依存のリスクと対策の重要ポイント



薬のやめ時と診療について

 長く薬を服用していると、「もう薬なしで大丈夫かな?」と思うこともあるでしょう。しかし、突然の服用中止は、反動や離脱症状を引き起こす可能性があります。

お薬のやめ時の目安としては、症状の安定(症状が安定していて、日常生活に大きな支障がない場合。)や、生活環境の改善(例えば、新しい仕事や生活のリズムが整ってきた場合。)などがあげられますが、これらのサインがあったとしても、必ず医師と相談し、徐々に薬を減らすか、または中止するよう指導を受けることが必要です。

また、気になることや疑問が生じた際に、速やかに医師に相談できる環境を整えておくことも重要です。

診療所やクリニックの連絡先を常に持っておく、定期的な診察日を決めておくなど、アクセスのしやすさを意識しましょう。


市販薬と処方薬の違い

 市販薬と処方薬の違いは、その名称の通り、どのように入手するかにあります。

市販薬はドラッグストアや薬局で自由に購入できますが、処方薬は医師の処方箋が必要です。
ADHDの薬は、その効果や副作用、また使用目的や量によって、個人に合わせた選択が必要です。そのため、専門家の指導のもと、正確に処方される必要があります。

市販薬は一般に、症状の軽度なものや一時的なものに有効です。
ADHDのような持続的な疾患の服薬には、専門家の判断と指導が必要と考えられます。






文献リスト:
・Biederman, J., Wilens, T., Mick, E., Faraone, S. V., & Spencer, T. (2006). Does attention-deficit hyperactivity disorder impact the developmental course of drug and alcohol abuse and dependence? Biological Psychiatry, 60(4), 258-265.






4.ADHD薬 市販とその効果

4.ADHD薬 市販とその効果


 ADHD薬は、患者さんの生活の質を向上させるための大切なツールの一つです。

しかし、皆さんは処方箋がないと手に入れられないものと思っているかもしれません。
ここでは、市販されているADHD関連の薬や、その効果について解説します。


市販されているADHD関連薬

 実際に、日本では、真のADHD治療薬が市販されているわけではありません。

しかし、集中力を高める効果が期待されるサプリメントや、一時的な疲労回復を目的とした薬が市販されています。
これらの製品は、厳密にはADHDの治療薬ではないものの、一部の方は効果を感じることができるかもしれません。


コンサータとストラテラの市販情報

 コンサータとストラテラは、日本で承認されているADHDの治療薬の中で非常に知名度が高いものです。
これらは、専門的な診断を受けた上で、医師からの処方箋が必要となります。

・コンサータ:
脳内のドーパミンとノルアドレナリンという神経伝達物質の働きを調整し、ADHDの主な症状である注意散漫や衝動性を緩和します(Kooij et al., 2010)。

・ストラテラ:
ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、同じく注意力や活動量の調整に働きかけます(Michelson et al., 2001)。


市販されているという誤解を招くような偽物や模倣品には注意が必要です。
正確な診断と適切な治療を受けるためにも、専門の医療機関を利用することをおすすめします。



知名度が高いADHD関連薬の表



集中力を高める市販薬の解説

 日本の市場には、集中力アップや疲労回復をうたった多くのサプリメントやドリンクが存在します。

例えば、イチョウ葉エキスであるギンコビロバやDHAを含むサプリメントなどがあります。

・ギンコビロバ:
脳の血流を改善するとされるイチョウ葉エキスで、集中力や記憶力の向上が期待される成分です(Solomon et al., 2002)。

・DHA:
魚の油に含まれる、脳の神経細胞の働きをサポートするオメガ3脂肪酸の一つです。
学習能力や記憶力の向上に役立つとされています(Stonehouse et al., 2013)。
しかし、これらの市販薬やサプリメントがADHDの症状に有効であるとは限らず、症状の重い方や医療レベルのADHD治療を求める方は、専門の医師の診察を受けることを強くおすすめします。




集中力を高める市販薬の解説の表







文献リスト:
・Kooij, J. J., Burger, H., Boonstra, A. M., Van der Linden, P. D., Kalma, L. E., & Buitelaar, J. K. (2010). Efficacy and safety of methylphenidate in 45 adults with attention-deficit/hyperactivity disorder. Neuropsychiatric disease and treatment, 4(1), 187.
・Michelson, D., Faries, D., Wernicke, J., Kelsey, D., Kendrick, K., Sallee, F. R., & Spencer, T. (2001). Atomoxetine in the treatment of children and adolescents with attention-deficit/hyperactivity disorder: a randomized, placebo-controlled, dose-response study. Pediatrics, 108(5), e83-e83.
・Solomon, P. R., Adams, F., Silver, A., Zimmer, J., & DeVeaux, R. (2002). Ginkgo for memory enhancement: a randomized controlled trial. Jama, 288(7), 835-840.
・Stonehouse, W., Conlon, C. A., Podd, J., Hill, S. R., Minihane, A.
M., Haskell, C., & Kennedy, D. (2013). DHA supplementation improved both memory and reaction time in healthy young adults: a randomized controlled trial. The American journal of clinical nutrition, 97(5), 1134-1143.






5.発達障害とADHDの薬物療法

5.発達障害とADHDの薬物療法


 発達障害やADHDは、多くの方々の日常生活や学業、仕事に影響を及ぼすことがあります。

治療法の一つとして、薬物療法が選択されることがありますが、その背景やどのような薬が処方されるのかを理解することで、安心して治療を受けられるでしょう。

発達障害におけるドーパミン不足の理解

 ドーパミンは、私たちの脳内で神経細胞同士の情報伝達を助ける神経伝達物質の一つです。
特に注意や報酬、動機付けに関わる部分での働きが注目されています(Swanson et al., 2007)。

発達障害やADHDの人々の中には、このドーパミンの量や働きが通常とは異なる場合があります。

研究によれば、ADHDの人々の脳では、特定の部位でドーパミンの量が少ないことが示唆されています(Volkow et al., 2009)。
このような状況下では、注意の散漫や衝動性、活動量の過多などの症状が現れやすくなります。



子ども向けのADHD薬とその効果

 子どもたちにADHDの症状がある場合、学業や友人関係に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため、適切な治療が必要となります。以下は、主に子ども向けに処方されるADHD薬とその効果です。


・メチルフェニデート:
この成分を含む薬には、コンサータやリタリンなどがあります。
ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、脳内でのこれらの神経伝達物質の濃度を増やします(Faraone, 2018)。これにより、注意力の改善や衝動性の低下が期待されます。

・アトモキセチン:
ストラテラの有効成分です。主にノルアドレナリンの再取り込みを阻害します(Michelson et al., 2001)。この作用により、注意力が改善されると考えられています。



子ども向けのADHD薬とその効果




発達障害の薬物療法と薬の選び方

 発達障害を持つ方々は、症状や状態が異なるため、一概に「これがベスト」とは言えません。薬の選び方は、以下の点を考慮して行われます。

症状の重さ: 重度の症状を持つ方は、即効性があり、効果が強い薬が選ばれることが多いです。
副作用のリスク: 副作用のリスクや、それに対する患者さんの許容度によって、薬の種類や投与量が調整されます(Cortese et al., 2018)。
他の持病や薬の併用: 他の病気の治療で薬を服用している場合、相互作用を避けるための配慮が必要です。


最後に、発達障害やADHDの薬物療法については、専門の医師やカウンセラーと十分なコミュニケーションを取りながら進めることが大切です。

自身の体調や感じる変化、不安点などは、遠慮せずに医師に伝えましょう。



自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

症状チェッカー




発達障害の薬物療法と薬の選び方の重要ポイント3つ





文献リスト:
・Swanson, J. M., Kinsbourne, M., Nigg, J., Lanphear, B., Stefanatos, G. A., Volkow, N., ... & Wigal, T. (2007). Etiologic subtypes of attention-deficit/hyperactivity disorder: brain imaging, molecular genetic and environmental factors and the dopamine hypothesis. Neuropsychology review, 17(1), 39-59.
・Volkow, N. D., Wang, G. J., Newcorn, J. H., Kollins, S. H., Wigal, T.L., Telang, F., ... & Wong, C. (2009). Motivation deficit in ADHD is associated with dysfunction of the dopamine reward pathway.
Molecular psychiatry, 16(11), 1147-1154.
・Faraone, S. V. (2018). The pharmacology of amphetamine and methylphenidate: Relevance to the neurobiology of attention-deficit

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