ADHD(注意欠如・多動症)の特徴について

監修者紹介
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター

はじめに

 「なぜだがわからないけれど、自分が普段会話している時に相手に怒られてしまう」や「話をしている時に、なんだか話が噛み合わない、少しずれている」といった、コミュニケーションのズレを持ったことはありませんか?
もしくは、周りにそのような人はいないでしょうか。

そうした人はADHDと呼ばれる発達障害の傾向を持っているかもしれません。



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ADHD(注意欠如・多動症)とは

 ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害のひとつです。
発達障害の中でも、ADHDは子供で20人に1人大人で40人に1人いると言われており、近年その数はさらに増加していると言われています。
しかし、全員に診断がついているわけではないため、本人も、周囲の人も、「なんとなく違う…」と感じ、お互いに違和感を感じたり、ストレスになることもあります。

このような状態が続くと、お互いにストレスが溜まり、いじめやうつ病に繋がってしまうこともあります。
そこで、ADHDの人の会話の特徴を知っておくと、自分自身や、職場の人の傾向がわかり、今後のコミュニケーションに役立つでしょう。



ADHD(注意欠如・多動性障害)の会話における特徴

ADHD(注意欠如・多動性障害)の会話における10の特徴



 会話におけるADHDの人の特徴を見ていきましょう。

主語がない

日本語ではよく主語が省略されがちですが、ADHDの人の場合、それが顕著に現れます。
ADHDの人の特徴として、多動性というものがありますが、この場合思考が多動することによって、頭の中で色々考えている傾向があります。
しかしその一方で、相手の気持ちが分かりづらいという傾向があり、どこまで説明すれば分かってもらえるかわからなかったりするのです。
そのため、言葉足らずになったり、逆にとても長ったらしく話してしまったりするのです。

一方的に話し続ける

よく会話のことをキャッチボールであると表現することがありますが、ADHDの人との会話の場合、キャッチボールにすらなっていないことがります。
ADHDの人の頭の中は、前置きから詳細まで、様々な話が展開していると言われています。
その内容をそのまま話してしまうため、聞く側からすると、話がどんどん展開していき、時には脱線までするので、質問の隙もなく一方的な発言が続き、辛いこともよくあります。

知っている前提で話す

一般的に人はコミュニケーションの中で、自他境界とよび、自分と他人を無意識に区別しているものですが、ADHDの人の中には、そのような自分と他人の境界が曖昧になっています。
つまり自分と他者が違う考え方やものの見方をするということが思い浮かびづらいのです。
自分が知っていることは相手も知っているだろうと決めつけ、その価値観を押し付けてしまいます。

早口や大声

いつも早口というわけでないのですが、興味や関心のある話題になると無意識のうちに早口になる傾向があります。
さらに、興味関心のある話題になると、そのことに意識が向いてしまい、大声になってしまうこともあります。
また楽しすぎるせいか、話に夢中になってしまい、時間を忘れて長時間会話をしてしまうこともあります。
相手はもう会話を終わらせたいのに、それに気づかず繰り返し話していたりすることもあります。

余計な一言

普通の人は、思ったことがあっても、それを相手に伝えようとするときに、相手に伝わったらどう捉えられるか、どのような影響があるかを考える時間をとります。
しかし、ADHDの人は、衝動性や、人の気持ちがわからないという特性から、相手の気持ちに寄り添わず、頭で思った本心がそのまま出てしまうことがあります。

ふとした時に怒る

ADHDの人の中には、易怒性と呼ばれる、怒りやすい特性を持つ人がいます。
何か気に入らない話題があると、少しの刺激で怒りが瞬時に湧き上がってしまいます。
また衝動性や多動性の特性と合わさって、怒りが止まらなくなってしまうということもしばしばあります。

話している最中に忘れる

ADHDに人は、短期記憶が苦手という人が少なからずいて、話していた内容を忘れてしまうことがあります。
自分が伝えようとしていたことが抜けてしまい、すでに話した内容を何度も同じ話を繰り返すこともあります。

割り込んで話す

相手が話している間に、それを遮って自分の話したいことを話してしまいます
また、質問に対する答えを食い入るように話し込むこともあります。
これは、ADHDの衝動性という特性によるものだと考えられますが、話を遮ることは、誰にとっても気持ちの良いことではありません。

話を聞かない

自分の興味のある話以外聞かなくなることがあります。
ADHDの人には、注意力が散漫な特徴があるため、興味がない話題に対しては極端に集中維持が難しくなったりすることがあります。
その結果、相手が話している間上の空になったり、別のことを考え、話を聞いていないと感じさせてしまうこともあります。

大人数での雑談が苦手

一対一の会話は得意でも、3人以上や4人以上になると話せなくなることがあります。
大人数での会話はどんどん会話の内容が変わるため、それについていくのが難しく感じてしまうのです。
また人の気持ちを汲み取るのが苦手なので、今自分が話し始めていいのか読み取れないことがよくあります。

このような傾向の結果、会話が噛み合わないと思ったり思われたりすることになり、コミュニケーションが難しくなってしまうのです。





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ADHD(注意欠如・多動性障害)の会話における特徴10つ一覧






ADHD(注意欠如・多動性障害)の生活における特徴

ADHD(注意欠如・多動性障害)の生活における6つの特徴


 ADHDの特性は日常生活の様々なところで現れます。
生活だけでなく、仕事にも支障が出ることがあります。
生活の乱れが単なる性格によるものなのか、ADHDという特性によるものなのか判断が難しいです。

そこで、日常生活におけるADHDの特徴を見ていきましょう。


物事を順序立てて行えない

ADHDの人は計画を組んだり、段取りを組むのが苦手な傾向があります。
順序立てて計画を立てるのが苦手なので、マルチタスクなどの作業が非効率になり普通の人に比べて時間がかかってしまうのです。

整理整頓が苦手

空間認識の能力が高くない人が多く、その不注意さから、やりたいことに注意が移ってしまいます。
また、物体の位置や大きさ、方向を判断することが苦手なので、収納する作業が難しく感じることがあります。
またやりたいことを優先してしまうため、部屋がまだ散らかっていても、それを放置して別のことを始めたりしてしまいます。

疲れやすい

ADHDの人には疲れやすい傾向を持つ人が多いです。
衝動性や多動性といった特性と相まって、体があれこれと動いてしまたり、頭の中で考えが次から次へと浮かんでしまい、頭が疲れてしまいます

突発的な予定で動く

衝動性が強い傾向があるので、大きな旅行の予定なども思い立った途端始めようとします。
ある意味極端に「行動力のある」状態です。
また買っても使わないものなどを衝動買いして、失敗してしまうこともあります。
また、怪しい情報商材などにも飛びついてしまう傾向があります。

忘れ物、失くしものが多い

これらは、ADHDの特性である不注意や、ワーキングメモリの苦手さからくるものです。
意識をしていないうちに、自分のものを置き忘れてしまい、少し前の記憶が抜けてしまいます

夜更かしが多い

不注意の特性により、意思とは別に気づいたら遅くなってしまいます。
あることに夢中になってしまい、過集中により時計が目に入らず、気づけば夜を明かしていたというケースもよく見られます。
後先を考えられない特性も原因の一つです。

特に衝動性の特性から、思わぬ場面で大きく散財するようなことがあるため、注意が必要です。




ADHD(注意欠如・多動性障害)の生活における特徴6つ一覧




自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

症状チェッカー




ADHD(注意欠如・多動性障害)の原因

発症の原因は?

 ADHDの原因として、まず行動等をコントロールしている神経系に原因があります。
脳の機能障害、特に「前頭葉」と呼ばれる部分の働きに何らかの異常があることが関係していると考えられています。

前頭葉は脳の前部分にあり、物事を整理整頓したり論理的に考えたりする働きをします。
この部位により、注意を持続させたり行動などをコントロールしたりすることができます。

ADHDの人はこうした注意集中や行動制御の機能に何らかの偏りや異常があり、前頭葉がうまく働いていないのではないかと考えられています。

さらに、脳の神経伝達物質であるドーパミンとノルエピネフリンがADHDの発症と関連していることも知られています。
これらの神経伝達物質のバランスが崩れることで、注意力や衝動の制御に問題が生じています。

いずれにせよ、どうしてそのような異常が起こるかの根本的な理由ははっきりとしていません
元々の素因と過去の環境、現在の環境の影響の相互作用によって症状が生じるという考え方もあります。
そのため単に「育て方が原因」「親の遺伝」ということではなく、さまざまな要因が影響し合って現在の症状があるのです。





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ADHD(注意欠如・多動性障害)の治療法

ADHD(注意欠如・多動性障害)の治療法



 ADHDの治療法として、一般的に用いられるものは「薬物療法」「環境調整」「認知行動療法」などがあります[1]。

薬物療法

ADHDの症状を改善するために薬を服用していきます。
脳内の神経伝達物質のバランスを整えるものなどがあり、人によって合うものが違うため、主治医と一緒に続けていきます。

メチルフェニデートという薬剤がADHDの不注意・多動-衝動性を軽減する可能性があるとして保険適用されています。
これは脳内のドーパミンという物質を増やすことで、脳の覚醒度を上げ、ADHDの症状を改善します。
合併症を持つ患者さんに対して副作用もあるため、登録された医師や専門医療機関でのみ処方が可能で、薬局の登録も必要です。

その他、アトモキセチン、グアンファシンという治療薬も使用されることがあります。
アトモキセチンは脳内のノルアドレナリンという物質を増やすことで、症状を改善するとされ、グアンファシンはアドレナリンの伝達を増強することが症状の改善に寄与しているといわれています。


ADHDの治療薬について以下の記事で詳しく解説しています。併せてお読みください。

関連記事:ADHDの症状緩和:治療薬の効果と選び方

環境調整

環境調整とは、自分の特性(得意・苦手なこと)を理解したうえで、苦手分野を補うために生活環境や人間関係などを見直す方法のことです。
教室での机の位置や掲示物などを工夫して、本人が少しでも集中しやすくなる方法を考える物理的な介入法や、勉強や作業を10~15分など集中できそうな最小単位の時間に区切って行わせる時間的介入法などが有効です。このように環境を調整することで自分の苦手な特性をカバーできるようにしていきます。

認知行動療法

認知行動療法とは、認知(考え方や価値観)のゆがみを改善し、状況や場面にふさわしい行動がとれるよう、トレーニングを行う方法です。
認知行動療法を通して、本人のストレスへの対応の仕方を学び、社会に適応できるようにしていきます。

こうした取り組みに関して、主に子どもに関わる保護者が学ぶトレーニングが「ペアレントトレーニング」として知られています。また各地で実際に当事者の保護者が活動するペアレントメンターという制度も整ってきています。




ADHD(注意欠如・多動性障害)の治療法3つまとめ




ADHD(注意欠如・多動性障害)についてのまとめ

ADHD(注意欠如・多動性障害)についてのまとめ


 ここまでの記事の特に重要なポイントを確認していきましょう。

  • ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害のひとつ。発達障害の中でも、ADHDは子供で20人に1人、大人で40人に1人いると言われており、近年その数はさらに増加している。
  • 会話における特徴として、「話をしている時に、なんだか話が噛み合わない、少しずれている」といった、コミュニケーションのズレを感じる場面が多い
  • 日常生活における特徴として、計画を立てるのが苦手だったり、疲れやすかったり、忘れ物、失くしものが多かったりする傾向がある
  • 原因として、脳の機能障害、特に「前頭葉」と呼ばれる部分の働きに何らかの異常があることが関係していると考えられている。治療法は主に薬物療法、環境調整、認知行動療法などに分けられる

ADHDの治療は、人格形成の途上にある子どものこころの発達を支援する上でとても重要です。
家族と専門家・教師の連携はいうまでもなく重要ですが、親子こそがしっかり連携して双方の「言い分」をやり取りできる雰囲気があると、ADHDを持つ子どもはこの障害を乗り越えるのに必要な力を得ることができるでしょう。

参考文献

[1] 厚生労働省;e-ヘルスネット「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療」

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