「向いていない」のか「ADHD」なのか、辞める前に切り分けたい人へ
「この仕事、向いていないのかもしれない。でも、もしかしたらADHDだからなのかもしれない」
「転職サイトを眺めては、『次の仕事でも同じことになるのでは』と手が止まる」
「辞めたい理由を聞かれても、うまく説明できる自信がない」
仕事の困りごとが続くと、「この仕事が向いていないのでは」という考えと、「自分の特性のせいでは」という考えが、頭の中で行ったり来たりします。どちらなのかが分からないまま転職に踏み切るのは不安で、かといって今のまま消耗し続けるのもつらい——。
この記事は、転職をすすめるものでも、引き止めるものでもありません。辞めるかどうかを決める前に、「向いていない」と「特性かもしれない」を切り分けておくと、どちらの道を選ぶにしても判断がしやすくなる、ということをお伝えする記事です。
この記事でわかることは、次のとおりです。
- 「向いていない」と「ADHDかも」の間で迷いが生まれる理由
- 転職で変わりやすい困りごとと、ついてきやすい困りごとの一般的な傾向
- 辞める前に、医師と一緒に切り分けることの意味
- 仕事を続けながら相談しやすい、オンラインという選択肢
「向いていないのかも」と「ADHDかも」の間で迷うのは、自然なことです
この迷いが生まれるのには、はっきりした理由があります。同じひとつの困りごとが、「向き不向き」でも「特性」でも、どちらでも説明できてしまうからです。
たとえば、細かい確認作業でミスが続くとき。「自分は緻密な作業に向いていない」と考えることもできれば、「注意の向け方に特性があるのかもしれない」と考えることもできます。段取りが崩れやすいときも、「この仕事の進め方が合っていない」とも「実行機能の特性かもしれない」とも解釈できます。どちらの説明にも一応の筋が通ってしまうため、一人で考えれば考えるほど、結論が出なくなっていくのです。
そして結論が出ないまま、疲れた夜に転職サイトを開いては閉じる、という時間だけが積み重なっていきます。この状態は、決断力がないのではなく、判断に必要な材料がそろっていないだけだと考えてみてください。材料がそろわないまま大きな決断を迫られているのですから、迷うのはむしろ自然なことです。
転職で変わりやすい困りごと、ついてきやすい困りごと
一般的な傾向として、仕事の困りごとには、環境を変えると変わりやすいものと、環境が変わってもついてきやすいものがあります。
- 変わりやすい傾向があるもの —— 特定の業務内容との相性、職場の文化や進め方、特定の人間関係など、その環境に固有の要因が大きい困りごと
- ついてきやすい傾向があるもの —— 段取りの組み立て、注意の向け方や切り替え、締切との距離感など、環境が変わっても本人の情報処理のパターンとして現れやすい困りごと
もし困りごとの中心が後者にあり、そこにADHDの特性が関わっている場合、職場を変えても似た場面で似たつまずきが出る可能性があります。逆に、前者が中心であれば、環境を変えることで大きく改善することも十分ありえます。転職が正解の場合も、そうでない場合も、どちらもあるのです。
ただし、自分の困りごとがどちら寄りなのかを、自分ひとりで見極めるのは簡単ではありません。渦中にいるときほど、直近のつらかった出来事に引っ張られて、全体の傾向が見えにくくなるからです。また、消耗が続いている時期は、本来なら環境要因の困りごとまで「自分の欠陥のせい」と感じてしまうなど、解釈そのものが偏りやすくなります。ここが、専門家の視点を借りる意味が出てくるところです。
「仕事が向いていないのか、特性なのか」というご相談は、外来でも珍しくありません。診察では、いま困っている場面だけでなく、これまでの職歴や学生時代も含めて、困りごとがどんな環境で・どんな形で現れてきたかを一緒に振り返ります。複数の環境で同じ種類のつまずきが繰り返されているのか、特定の環境に限られているのか——その経過を整理するだけでも、見え方が変わることが多くあります。
辞める前に、医師と切り分ける意味
「転職を考えている段階で精神科に相談するのは大げさでは」と感じるかもしれません。けれども、次のような状態に心当たりがあるなら、辞める判断の前に一度切り分けておく意味があります。
- 転職を考えはじめたのに、辞めたい理由を自分でもうまく説明できない
- 思い返すと、前の職場や学生時代にも似た種類の困りごとがあった
- 「向いていない」と感じる場面が、特定の種類の作業に偏っている
- 求人を見ても「次も同じことになるのでは」という不安で気持ちが動かない
切り分けておくことの利点は、どの道を選ぶにしても判断材料が増えることです。特性が関わっていると分かれば、いまの職場でできる対処や治療という、転職以外の選択肢も視野に入ります。特性の関与が薄そうだと分かれば、環境やキャリアの問題として整理して、転職活動に迷いなく向かえます。そして転職を選ぶ場合でも、自分がつまずきやすい場面の傾向を知ったうえで次の仕事を選べるのは、大きな違いです。
言いかえると、切り分けは「辞めない理由探し」ではなく、辞める場合も辞めない場合も、次の一歩の精度を上げるための準備です。
受診はオンラインでもできます
エニキュアでは、初診からオンラインで精神科・心療内科に相談できます。朝8時〜夜24時まで、土日も診療しているため、仕事を続けながらでも、勤務の前後や休日に相談しやすい体制です。
受診前には事前の問診票があります。「向いていないのか特性なのか分からない」という整理のつかない状態のままでも、診察では医師が必要なことを質問しながら確認していくため、準備が完璧でなくても大丈夫です。
診察では、ADHDかもしれないという不安や仕事の困りごとだけでなく、不眠、不安、気分の落ち込み、必要に応じた診断書についても相談できます。医師が処方した薬は、配送に対応できる場合があります。
なお、心理検査や一部のお薬など、オンラインでは対応できないものもあります。その場合は、診察のなかで医師が必要な選択肢をご案内します。
切り分けの結果は、どちらであっても次につながります
「もし特性じゃなかったら、相談した意味がないのでは」と心配になるかもしれませんが、切り分けの結果は、どちらに転んでも無駄になりません。
ADHDの特性が関わっていると分かった場合は、困りごとに「向き不向き」以外の説明がつき、治療や対処という新しい選択肢が生まれます。いまの職場で続ける道も、特性を理解したうえで転職する道も、どちらも以前より具体的に検討できるようになります。
一方、特性の関与が薄そうだという整理になった場合も、それは「消去法がひとつ進んだ」という確かな前進です。困りごとの原因を環境やキャリアの側に絞って考えられるようになり、迷いの総量が減ります。また、長く続いた迷いや消耗そのものが不安や気分の落ち込みにつながっている場合は、その部分のケアを診察で相談することもできます。
診断名がつくかどうかにかかわらず、「自分はどんな場面でつまずきやすいのか」という理解が深まること自体が、この先の仕事選びを支える材料になります。
診察の目的は、ADHDかどうかの白黒をつけることだけではありません。転職という大きな決断を前にした方に対しては、困りごとの成り立ちを一緒に整理し、ご本人が納得して選択できる状態を目指すことを大切にしています。医師が「辞めるべき」「辞めないべき」と決めることはなく、あくまで判断の材料を増やすお手伝いをする立場です。迷っている段階でのご相談も、まったく問題ありません。
よくある質問
Q1. 診察で「仕事を辞めたほうがいい」と言われることはありますか?
医師が転職や退職といったキャリアの決定を下すことはありません。決めるのはあなた自身です。診察で行うのは、いまの状態の確認と、困りごとの成り立ちの整理、そして選択肢の情報提供です。「辞めたい気持ちがある」ことも「辞めたくない気持ちがある」ことも、どちらもそのまま話して大丈夫です。
Q2. 転職活動をしながらでも受診できますか?
できます。在職中でも、転職活動中でも、受診のタイミングに条件はありません。むしろ、次の仕事を選ぶ前に自分のつまずきやすい場面の傾向を知っておくことは、転職活動そのものの助けになる場合があります。活動状況を診察で共有しておくと、それをふまえた相談がしやすくなります。
Q3. 診察では、仕事の内容をどこまで詳しく話す必要がありますか?
話せる範囲で構いません。会社名や具体的な案件名を伏せたままでも、「どんな種類の作業で」「どんなつまずき方をするか」が伝われば、診察は十分に進められます。診察には守秘義務があるため、話した内容が職場に伝わることを心配する必要もありません。うまく言葉にできない部分は、医師が質問しながら一緒に確認していきます。
Q4. 受診したことが、いまの職場や転職先に伝わることはありませんか?
医療機関には守秘義務があり、あなたの同意なく受診の事実や診察内容が職場や転職先に伝わることは基本的にありません。伝えるかどうか、伝えるとすれば何をどこまで伝えるかは、あなた自身が選べます。伝え方に迷いがある場合は、その迷い自体を診察で相談することもできます。
まとめ
「向いていない」のか「ADHD」なのか——この迷いは、同じ困りごとがどちらでも説明できてしまうために生まれる、自然なものです。そして、その切り分けを一人で完結させるのは簡単ではありません。
辞める前に医師と一緒に切り分けておくと、転職する場合も、しない場合も、次の一歩の判断材料が増えます。結果がどちらであっても、自分のつまずきやすい場面への理解は残り、この先の仕事選びを支えてくれます。診断名がはっきりしないままの、整理のつかない気持ちのままで相談して大丈夫です。
なお、いま気持ちのつらさが強く、一人で抱えるのが難しいときは、厚生労働省の「まもろうよ こころ」で電話やSNSの相談窓口が案内されています。緊急のときは、こうした窓口も頼ってください。
参考URL
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。体調や治療に関する判断は、必ず医師にご相談ください。
運営: エニキュア|オンライン精神科・心療内科
