生理前の気分の落ち込みの対処法とは?月経前気分障害(PMDD)の症状と治療

監修者紹介
徳山祥音
熊本大学医学部医学科卒業。 熊本大学病院神経精神科、熊本医療センター精神科などの勤務を経て平成30年より上通りメンタルクリニック院長。 精神科専門医、精神保健指定医。 うつ病、不眠症、不安症、発達障害などを中心に治療経験
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徳山祥音
熊本大学医学部医学科卒業。 熊本大学病院神経精神科、熊本医療センター精神科などの勤務を経て平成30年より上通りメンタルクリニック院長。 精神科専門医、精神保健指定医。 うつ病、不眠症、不安症、発達障害などを中心に治療経験
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 みなさんは、月経前症候群または月経前気分障害といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。

女性の多くは、生理前になると気分がイライラしたりわけもなく悲しくなってしまったりといった経験をしたことがあるのではないでしょうか。
男性でも、パートナーが生理前になるとどうも感情が不安定に、すなわち情緒不安定になっていると感じたことがあるかと思います。

実はこういった症状は、本人の気質の問題ではなく、月経前症候群(PMS)/月経前気分障害(PMDD)といった「病気」が原因となっている場合があるのです。

この記事では、これら二つの疾患について症状や治療を解説していきます。生理前の情緒不安定で悩んでいる女性の方や、そのパートナーの方は是非この記事を読んで理解を深めてください。


 

生理前の症状:月経前症候群(PMS)と月経前気分障害(PMDD)の違いとは?

生理前の症状:月経前症候群(PMS)と月経前気分障害(PMDD)の違いとは?

月経前症候群(PMS)/ 月経前気分障害(PMDD)とは?

 月経前症候群(PMS)と月経前気分障害(PMDD)は明確に区別されているわけではなく、婦人科領域ではPMS、精神科領域ではPMDDと呼ばれることが多いです。

しかし、文献によってはPMSの最も重症な型がPMDDであると定義されている場合もあり、重症度によってPMSとPMDDが区別されることもあります。
精神疾患の診断・統計マニュアルのDSM-5では、PMDDがうつ病性障害の新たな診断カテゴリーとして含まれており、世界的な注目が集まっている疾患であることが分かります。

PMS/PMDDは、月経3-10日前のいわゆる黄体期に現れる身体的または精神的症状で、月経が来ると症状が減衰したり消失したりするものを指します。生理の周期に従って症状が出現することからも分かるように、女性に特有の病気です。


PMS/PMDDで困っている患者さんはどれくらい存在するの?

 厚生労働省による「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」単純集計結果 (2022年3月 28日)によると、3000人の女性被験者のうち57.1%に及ぶ1713人がPMSの症状である「疲れやすく、気力がわかない」と回答しており、多くの女性がPMSにより困難を感じていることが分かります。
さらに、同アンケート中で、PMS/PMDDの症状である11項目のうち1つ以上の項目があると回答した2415人について、これらの症状が出現したときにどのように対応しているかを尋ねてみたところ、38.5%に及ぶ929人が「症状が出ても我慢している」、26.5%に及ぶ640人が「市販の痛み止めを服用している」と回答しており、多くの女性が病院に行くことなく自分で対処していることがわかりました。※1




PMS/PMDDの患者率のグラフ



このように症状がありながらも病院を受診しない理由として、PMS/PMDDが月経発来と同時に症状が消失することが関与していると考えられ、潜在的なPMS/PMDDの患者さんは18万人に及ぶと推定されています。※2



 

月経前の気分障害の原因

PMS/PMDDの病態としては、セロトニンを始めとする中枢神経伝達物質、卵巣ホルモン、神経ステロイドが主に関与していて、主な治療としては、これらの脳の神経伝達系や視床下部―下垂体―卵巣軸などを標的としています。※3

卵巣ホルモンの関与に関しては、PMS/PMDDに罹患している女性のホルモンの量に明らかな変化があるというわけではなく、症状の重い女性では正常量の女性ホルモンに対する暴露や、ホルモン量の生理周期に伴う変化に対して過敏であるとされています。この過敏性の原因として、セロトニンの伝達が非定型的であることが考えられています。※4






PMS/PMDDとは?に関するまとめ

 




生理前の情調不安定だけ?PMS/PMDDの主な症状

生理前の情調不安定だけ?PMS/PMDDの主な症状

ここではPMS/PMDDの症状を記述していきます。

 

PMS/PMDDの精神的な症状の解説

PMS/PMDDの一般的な精神的症状としては、以下のようなものが挙げられます。※3

ü  憂鬱や絶望感といったいわゆる抑うつ状態

ü  怒りっぽさやイライラ

ü  焦燥感

ü  集中力の低下

生理前になると攻撃的になったり、涙が溢れてしまったりいったことで情緒不安定な状態に陥ってしまう女性もいるかと思いますが、自分を責めてしまうのではなく、PMS/PMDDの症状であると理解することで心の持ち方も変わるでしょう。

 

 

PMS/PMDDの身体的な症状の解説

PMS/PMDDの一般的な身体的症状としては、以下のようなものが挙げられます。※3

ü  乳房の張りや痛み(圧痛)

ü  お腹が張る感じ、便秘

ü  肩こり、頭痛

ü  関節や筋肉など全身の痛み

ü  食欲の変動

ü  睡眠障害

ü  疲れやすさ

非常に多岐にわたることがわかりますね。正常な女性の生理周期は約1ヶ月ですから、PMS/PMDDでは1ヶ月ごとにこのような症状が現れることになります。疲れやすくなったり、睡眠障害が出てきてしまったりすることで仕事や学業にも影響をきたしますので、非常に辛い症状であることは間違いありません。

余談ですが、閉経後の女性に多い更年期症候群も女性ホルモンが関与する疾患ですが、PMS/PMDDと似通っています。





自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

症状チェッカー



PMS/PMDDの主な症状10個一覧

 



PMS/PMDDによる生理前の情緒不安定への対策と治療法

PMS/PMDDによる生理前の情緒不安定への対策と治療法



 それでは、そんなPMS/PMDDに対してどのような治療をしていくのかについて、見ていきましょう。

 

薬物療法

 PMS/PMDDに対しては、うつ病で用いられるフルオキセチンやパロキセチン、セルトラリンなどの、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がPMDDの症状を軽減するための第一選択薬として推奨されています。
SSRIは通常ではうつ病や不安障害の治療に用いられますが、これらの疾患に投与する場合、十分な効果が出るまでに4~8週間という長い期間がかかってしまいます。
しかし、重症のPMS/PMDDに対する効果は急速で、治療開始から数日から最長でも4週間で効果が出現します。
したがって、SSRIを用いる際は、月経周期を通じて継続的に投与する以外にも、月経予定日の約14日前、あるいは重度のPMS/PMDD症状が現れた時に開始し、月経時に中止するといった間欠的な投与も可能となっています。

 

また、日本国内では未承認ですが、海外では緊急避妊薬や子宮筋腫の治療薬として用いられているSPRM(選択的プロゲステロン受容体モデュレーター)がPMDDの症状を抑制すると考えられており、抗うつ薬が効かないor副作用がつよいPMDDの治療薬として有望視されています。※3



 

漢方薬での治療法

 漢方薬は、体質や症状に合わせて処方され、体全体のバランスを整える効果が期待されます。

副作用が小さいことも多いため、婦人科領域でも比較的使用しやすいです。



 

カウンセリング

 精神科医や心理士によって行われる認知行動療法(CBT)を始めとするカウンセリングは、ネガティブな自動思考や行動パターンを変える技術を教え、症状の管理に有効です。PMDDそのものの治療というよりは、精神症状に対する対症療法として行うという意味合いが強いです。





PMS/PMDDによる生理前の情緒不安定の治療法3つまとめ

 



生理前の情緒不安定をパートナーに伝える方法

生理前の情緒不安定をパートナーに伝える方法

生理前の気分の変動とは?

 ホルモンの変動により、気分が不安定になることを説明しましたが、ここでは女性の生理に伴ってホルモンがどのように変動するのかということを見ていきましょう。
基礎的な知識を身につけることで、自分の身体に起こっている現象を理解することができます。
女性の生理周期は、平均的に28日周期で進行しますが、もちろん個人差があり、24日から35日の間で変動することが一般的です。
この周期は、主に2つのホルモン、エストロゲンプロゲステロンの変動によってコントロールされています。以下に、生理周期に伴う女性ホルモンの変動を詳しく説明します。


 

月経期(1日目~5日目程度)

生理の最初の日を1日目として、この期間は子宮の内膜が剥がれ落ちることで生理が始まります。

エストロゲンとプロゲステロンのレベルは低く、これが生理痛や気分の落ち込みなどの症状を引き起こす原因となることがあります。

卵胞期(6日目~14日目程度)

卵胞が成熟する期間で、エストロゲンの分泌が増加します。エストロゲンの増加により、子宮の内膜が再び肥厚してきます。

この期間の終わりには、LH(黄体形成ホルモン)の急激な分泌増加が起こり、排卵が引き起こされます。

排卵期(14日目~16日目程度)

LHの急激な分泌増加により、成熟した卵胞から卵子が放出される排卵が起こります。

この時期は妊娠しやすい時期とされています。

黄体期(17日目~28日目程度)

排卵後、卵胞は黄体と呼ばれる組織に変わります。

黄体はプロゲステロンを大量に分泌し、これにより子宮の内膜はさらに肥厚します。この間、エストロゲンのレベルも引き続き高い状態を保ちます。

妊娠が起こらない場合、黄体は退行し、プロゲステロンとエストロゲンのレベルが低下します。これにより、子宮の内膜が剥がれ、次の月経が始まります。

このように、女性の生理周期はホルモンの変動によってコントロールされており、これがさまざまな身体的、心理的症状を引き起こす原因となります。

 

パートナーへの伝え方のポイント

 彼氏やパートナーにこれらの症状を伝える際には、正直かつ具体的に自分の状態を伝え、理解を求めることが大切です。
攻撃的になってしまったり、気分が落ち込んでしまったりすることは自分の性格や気質の問題ではなく、生理周期に伴うホルモンの変動によって引き起こされている「病気」であることをしっかりと説明しましょう。
その際には、前述のような女性の生理周期に伴うホルモン変動についての解説もぜひ利用してください。

病気であることを説明した上で、病院を受診するのかであったり、薬を服用するのかであったりといった今後の対応を協力して相談することで良好な関係を築くことができるでしょう。

 

パートナーシップ中の受診の勧め

 症状が日常生活に影響を及ぼす場合、または自分がPMS/PMDDなのではないかと不安になっている場合は、必ず専門家との相談を検討することを推奨します。

前述の通り、PMS/PMDDに直面している多くの女性が我慢して医療機関に受診していませんが、PMS/PMDDの症状は治療により改善が期待されますから、時間を作って受診すると良いでしょう。一人で受診することに不安を感じているのであれば、パートナーに付き添ってもらって受診しましょう。







パートナーシップ中の注意点4つ一覧






 

生理前の月経前不快気分障害(PMDD)の診断とチェック方法

生理前の月経前不快気分障害(PMDD)の診断とチェック方法

PMDDの診断基準(DSM-5)

 DSM-5には、PMDDの診断基準が明記されており、これに基づいて診断が行われます。

以下に、診断基準を記載します。※5

A.ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経修了後の週 には最小限になるか消失する。

B. 下記の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。

(1)著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)

(2)著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加

(3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考

(4)著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚

C. さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。

(1)通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退

(2)集中困難の自覚

(3)倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如

(4)食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望

(5)過眠または不眠

(6)圧倒される、または制御不能という感じ

(7)他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加

D. 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。

E. この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。

F. 基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)。

 

月経前症候群のチェックポイント

 厚生労働省による「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」、女性のPMS/PMDDのセルフチェック項目が確認できます。チェック項目は上述の診断基準と非常に似ていますが、病院受診を迷っている方には自宅で簡単に行うことができるセルフチェックがおすすめです。

以下からアクセスできますから、是非利用してみてください。

厚生労働省 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ

(https://w-health.jp/self_check/self_check_08/)





PMS/PMDDのチェック方法3つまとめ




 

生理前の情緒不安定:まとめ

生理前の情緒不安定:まとめ

 これまでで、女性の生理前の情緒不安定の原因となるPMS/PMDDの症状やその原因、治療法などについて詳しく見てきました。この疾患は女性に特有のものですが、男性もパートナーに対して適切な対応をとることができるように、ぜひ備えをしておきましょう。

正しい知識を学び、適切に対処することで改善が見込める疾患ですから、この記事を読んだ皆さんの助けの一助となれば幸いです。

 

参考文献

※1:厚生労働省 「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査」単純集計結果 (2022年3月 28日)

(https://www.mhlw.go.jp/content/000919869.pdf)

※2:PMSおよびPMDDに関する知識・関心についての実態調査 濱西 誠司 ヒューマンケア研究学会誌 第 5 巻 2 号 2014

(https://core.ac.uk/download/pdf/230299173.pdf)

※3:Tiranini L, Nappi RE. Recent advances in understanding/management of premenstrual dysphoric disorder/premenstrual syndrome. Fac Rev. 2022 Apr 28;11:11. doi: 10.12703/r/11-11. PMID: 35574174; PMCID: PMC9066446.

※4:Appleton SM. Premenstrual Syndrome: Evidence-based Evaluation and Treatment. Clin Obstet Gynecol. 2018 Mar;61(1):52-61. doi: 10.1097/GRF.0000000000000339. PMID: 29298169.

※5:PMS、PMDDの診断と治療―他科疾患との鑑別― 昭和大学医学部産婦人科学講座 白土なほ子 昭和学士会誌 第77巻 第4号 [360-366頁、2017]

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