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適応障害の治療法~ストレス対処から認知療法まで~
0.適応障害とは?
適応障害(英: Adjustment Disorder)は、日常で生じるストレスや、環境の変化に対して自分の心身が適応できる限度を超え、それによって心身の不調が生じる精神的な状態です。
一般的に、特定のストレス要因(転居、離婚、職場の問題など)が生じた後に現れ、個人の日常生活に影響を与えます。
症状としては、不安、抑うつ、無力感、不安定な気分、社会的な孤立などが含まれ、一般的にはそのストレス要因がはっきりしていることが多いので、その要因が取り除かれるか、またはその人が適切にそのストレスに適応することができると症状が改善する可能性が高いです。
1.適応障害の具体的な症状は?
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適応障害を発症したら具体的にどのような症状が見られるのでしょうか。
頭痛
適応障害によって頭痛が引き起こされることがあります。緊張型頭痛と呼ばれることもあります。
胃腸の不調
胃の痛み、消化不良、下痢、便秘などの胃腸の問題が起こることがあります。吐き気を催すこともよくあります。
筋肉の緊張
過度のストレスによって筋肉が緊張し、筋肉痛やこわばりが現れることがあります。
疲労感
持続的なストレスによって疲労感や無力感が増加し、エネルギーがないように感じることがあります。
睡眠障害
適応障害によって睡眠障害が生じることがあり、入眠困難や中途覚醒が増えることがあります。非常によく見られる症状です。
呼吸困難
適応障害によって、過呼吸や息苦しさを感じることがあることがあります。
心拍数の増加
不安や緊張によって心拍数が速くなることがあります。「心臓が止まってしまうのではないか」という恐怖感が伴うほどの動悸が伴い、パニック障害に移行することもあります。
皮膚の問題
皮膚のかゆみ、湿疹、発疹などがストレスによって引き起こされることがあります。
上記以外にも、自律神経の異常より様々な身体的症状が見られます。うつ状態といった、精神症状が現れる前から身体的症状が発生することがあり、こうした症状が現れてきたら、要注意です。
自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

2.適応障害になりやすい人の具体的な特徴とは?
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適応障害はストレスに耐えきれなくて発症すると説明しましたが、同じストレスを抱えていても適応障害になる人とならない人がいます。
適応障害になりやすい人は、どういった特徴を持つのでしょうか?
適応困難
まず、対人関係やストレスへの適応が難しい傾向があります。
社会的な状況への敏感さや適切なコミュニケーションスキルの不足が見受けられることがあります。
また、過去にストレスに弱い経験を持っている場合や、環境の変化に適応するのが難しい人もリスクが高いです。
自己評価の低さ
自己肯定感が不足していることも特徴です。
自分に自信が持てず、自己価値感が低い人は、ストレスに対して適切な対処策を見つけるのが難しくなることがあります。
過度な責任感
適応障害になりやすい人は、完璧主義や過度な責任感を持つことがあります。
物事がうまくいかないと自分を責めたり、他人の期待に応えようと努力しすぎたりすることがあり、その結果として適応困難が生じることがあります。
ストレス耐性
適応障害は、変化やストレスに柔軟に対応する能力が鈍い人に影響を及ぼすことが多いです。
適応障害の予防には、適切なストレス管理スキルの向上や、自己肯定感の強化、対人関係スキルの習得が重要です。
必要に応じて心理的なサポートを受けることも考えるべきです。
過度の心配
心配性の人は小さな問題や未来の変化に対して強い不安を感じることがあり、そのために精神的な適応が難しくなることがあります。小さな問題でも過度に心配するため、それがストレスとなって生活全体に影響を及ぼすことがあります。
几帳面、完璧主義
几帳面な人は予定外の出来事や変更に対して敏感に反応し、それが予期せぬストレスを引き起こすことがあります。
計画通りに進まないことに対して過度な不安や焦燥感を感じることがあり、これが適応障害のリスクを高めます。
また、物事が完璧でないと自分を責めたり、過度に努力しすぎたりすることで、ストレスが増大することも適応障害の原因の一つになります。

ここで注意してほしいのは、適応障害の症状があるからといって必ずしもストレス耐性が周りの人より低いわけではないことです。
適応障害は特定のストレスに対して発症し、ストレスと本人のミスマッチによって起こるため、ストレスの内容が本人に対してどのような意味を持つかが重要になります。
さらに、適応障害の発症には複数の要因が影響するため、個々の状況や遺伝的な要素も考慮する必要があります。
3.適応障害の発症要因
仕事環境での適応障害発症ケース
仕事環境ではさまざまなストレスを抱える要因が存在するので、適応障害の発症の可能性は高いです。
具体的にどういった要因があるでしょうか。
過度な業務負荷
業務が多忙で、締切やタスクの圧力が常に高い状況下で働く人は、ストレスが蓄積されやすくなります。
仕事のペースについていけず、適切な休息が取れないと、精神的な負荷に心身が耐えきれなくなることがあります。
対人関係の問題
上司や同僚との関係が悪化し、コミュニケーションが取りづらい状況では、ストレスが増大し、適応障害が引き起こされる可能性があります。
対人関係のトラブルが業務や心理的な健康に影響を与えることがあります。
パワハラやセクハラに苦しんでいる人も、適応障害発症のリスクは高くなります。
職場環境の変化
立場の変更や昇進によって新しい責任が増えると、負担が増え、適応障害が発症する可能性があります。
新しく配属された部署の環境になじめなかったり、新入社員や転勤で環境の変化に順応できない場合も危険です。
ワークライフバランスの欠如
長時間労働や仕事とプライベートの調和が取れない場合、ストレスが蓄積されて適応障害が発症することが多くあります。
十分な休息や自己の精神的限界を無視することが適応障害のリスクを高めます。
休職を検討している方はぜひ以下の記事を参考にしてみてください。
休職した方がいいサインとは?
プライベート生活での適応障害発症ケース
職場と同様に、プライベートで生じるストレスも適応障害が発症するリスクとして多くあります。
家族の問題
家族内での対立、離婚、親の健康問題など、家族に関する問題は強いストレスを引き起こすことがあります。
これによって適応障害が発症する可能性があります。
人間関係の困難
パートナーや友人との関係が悪化し、孤立感や孤独感を感じる場合、適応障害が発症するリスクがあります。人間関係の変化や不和が心理的な負担を引き起こすことがあります。
健康問題
自分や家族の健康問題に直面すると、不安や心配が増大し、適応障害が引き起こされる可能性があります。慢性的な病気や急な健康の変化が心理的なストレスを増加させることがあります。
生活の変化
転居、転職、引退などの生活の大きな変化は、新しい状況に適応するのが難しくなることがあり、適応障害が発症する可能性があります。
経済的な問題
仕事の失業、経済的な困難などによって生活が不安定になると、経済的なストレスが増加し、適応障害がリスクとなることがあります。
人生の変化
出産、子育て、子供の独立など、人生の重要な局面に直面すると、新しい役割や責任に対する不安やストレスが適応障害のリスクを増加させることがあります。
4.適応障害発症のメカニズム
ストレスが続くと適応障害を生じるのはどうしてでしょうか。
長引いたストレスは、徐々に心と身体を蝕んでいきます。
最初は「なにくそ!」と頑張って耐えることができても、時間が経つにつれて疲れ果て、ストレスと戦うことができなくなってしまいます。
これには、抗ストレスホルモンと呼ばれる一連のホルモンの働きが関連しています。
まず、人がストレスに直面した時、脳の視床下部という部位がそれを認識し、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。
CRHは、その近くにある下垂体と自律神経の交感神経中枢に作用し、下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とベータエンドルフィン、交感神経中枢からノルアドレナリンと呼ばれるホルモンの分泌を促します。
ACTHは、副腎と呼ばれる腎臓の上の部分に作用し、コルチゾールの分泌を促し、全身の代謝を高め、免疫力を強化します。
ベータエンドルフィンは、脳内麻薬として不安や緊張を和らげます。ノルアドレナリンも副腎に作用し、アドレナリンの分泌を促します。
こうした一連の流れの結果、全身の交換刺激が刺激され、血圧上昇、脈拍増加、瞳孔散大などが起こり、ストレスに立ち向かうための準備が行われます。
この機構は、いつまでも続くことはありません。
時間が経つにつれて次第に機能しなくなっていきます。
それは、CRHやACTH、ベータエンドルフィンなどの抗ストレスホルモンの分泌が時間と共に枯渇してくるからです。その結果、代謝、免疫力、自律神経機能などが低下し、疲労、倦怠感、食欲不振、不眠、めまい、うつ症状といった症状が出てきます。*1)

この経過は、「警告期」「抵抗期」「疲弊期」という三段階に分けることができます。
「警告期」は、ストレスに直面したことによる緊張、高揚の時期です。
これにより、抗ストレスホルモンの分泌にスイッチが入ります。
「抵抗期」では、その機能が十分に発揮されストレスに対抗しますが、「疲弊期」に至ると抗ストレスホルモンが枯渇し、抵抗できなくなります。
疲弊期に至る時期として、「3」という数字が節目になることが多いことがよく知られています。
休憩なしでプレゼンなどストレスがかかる中集中を続けられるのは三時間が限界と言われ、また入社三年目、三十歳を過ぎた頃に、疲弊時期に至ることが多くあります。
これを覚えていると、ストレスの予防に役立てることができます。例えば、入社してからそろそろ三年が経ったら、少し緩めて余暇を楽しもう、といった具合です。
*1)もしかして、適応障害?会社で”壊れそう”と思ったら;森下克也
5.適応障害の治療
適応障害の治療は、主に三つの方法があります。順に見ていきましょう。
原因となるストレス源の除去
先述の通り適応障害を発症するには特定のストレスが大きく関わっていることが多いです。
なので、何のストレスに影響されているかを正しく把握し、休職や転職により環境を変えるなどして、ストレスを逃れると、症状が治る可能性が高くあります。
認知行動療法
認知行動療法は、個人の思考(認知)と行動(行動)の関係に焦点を当て、その関係を理解し、健全な思考と行動への変容を促すことを目指す療法です。ストレスが原因となる適応障害では、ストレスの受け止め方にアプローチし、耐性を上げることを目標とします。
薬物療法
あくまで精神症状の一時的な緩和を目指すものです。
適応障害には不安やうつ症状が含まれるため、抗不安薬や抗うつ薬は、これらの症状を軽減するために使用されます。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)が含まれます。
適応障害に伴う睡眠障害がある場合、一時的な睡眠の改善を目指して睡眠薬が使用されることがあります。

適応障害に関するまとめ
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適応障害はストレスに耐えきれず心身の不調が発生する病気です。
- 精神症状が現れる前から身体的症状が発生することがあり、早期発見が悪化の予防につながるため、不調を感じたら早めに病院にいくこと
- 適応障害は特定のストレスに対して発症し、ストレスと本人のミスマッチによって起こるため、ストレスの内容が本人に対してどのような意味を持つかが重要。そのストレス源を取り除くことが第一優先
自分だけではなかなか環境を変えることができず、症状が長引く場合は、環境の調整とあわせてストレス対処能力の向上のための認知行動療法や、抑うつ症状や不安症状、不眠などの症状に対しての薬物治療があります。
症状が長引くと、うつ病などの他の精神疾患を併発することもあるため、日常生活に支障をきたすほどの症状が1~2週間続く場合には、早めに精神科や診療内科などの専門の医療機関を受診することを推奨します。
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