双極性障害の治療法と乗り越えるためのアドバイス

監修者紹介
徳山祥音
熊本大学医学部医学科卒業。 熊本大学病院神経精神科、熊本医療センター精神科などの勤務を経て平成30年より上通りメンタルクリニック院長。 精神科専門医、精神保健指定医。 うつ病、不眠症、不安症、発達障害などを中心に治療経験
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徳山祥音
熊本大学医学部医学科卒業。 熊本大学病院神経精神科、熊本医療センター精神科などの勤務を経て平成30年より上通りメンタルクリニック院長。 精神科専門医、精神保健指定医。 うつ病、不眠症、不安症、発達障害などを中心に治療経験
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0.双極性障害とは

 双極性障害は、簡単にいうと気分の波が極端に変化する精神疾患です。
主に「うつ状態」と「躁状態」の2つの極端な気分状態が交互に現れ、気分の浮き沈みが病的なまでに激しく現れます。

うつ状態の時期では、無気力や興味喪失などの症状が現れ、日常生活に対する興味や喜びを感じにくくなります。
一方、躁状態の時期では、興奮や多くのエネルギー、自己過信などが現れ、行動が活発になります。一般的にうつ状態の方が長いと言われています。

双極性障害は、主に20代~30代で発症することが多く、発症頻度は約100人に1人といわれています。
うつ病よりは頻度が低いものの、決して稀な病気ではありません。

症状を持っていたとしても、他人から見ると躁状態を単なる元気な状態としか見れないことが多く、病気であると認識されないことが多くあります。
双極性障害は決して本人の性格や心がけによって変えられるものではなく、医学的な治療が必要な脳の病気だということを理解しておく必要があります。


1.双極性障害の症状 〜躁とうつの周期は?〜

双極性障害の7つの症状 〜躁とうつの周期は?〜




 双極性障害の症状は人によって異なりますが、うつ状態と躁状態の周期が交互に現れることが特徴です。
では実際にうつ状態と躁状態とはどういった状態を指すのでしょうか。以下に具体的な症状を列挙します。

うつ状態

うつ病の女性イラストの画像



1.無気力
何事にも興味ややる気を感じにくく、日常の活動や趣味に対する関心が低下します。常に疲れている感じがあり、身体的にも精神的にもエネルギーが不足していると感じることがあります。

2.悲観的な考え

常にネガティブな視点で物事を捉え、未来に対する展望が暗く感じられます。

3.自己評価の低下

自分を否定的に評価し、自己評価が低くなります。自分に自信を持つことが難しくなります。

4.睡眠障害

十分な睡眠が取れない、または逆に過度に眠ることがあり、睡眠の質が低下します。

5.食欲変化

食欲が増したり減ったりし、体重の増減が見られることがあります。

6.集中力低下

物事に集中するのが難しくなり、仕事や学業、日常のタスクに取り組むことが困難になります。

7.自己孤立

他人との交流を避けたり、孤独感を強く感じたりすることがあります。




うつ状態の特徴7選一覧



躁状態

躁状態の女性イラストの画像

1.高揚した気分

躁状態では極度な喜びや興奮を感じることがあります。普段よりも活気に満ちているように思えます。

2.過度な自信

自分の能力や魅力を過大評価し、自信に満ち溢れた姿勢をとります。冒険的な行動にも踏み出す可能性が高まります。

3.多弁

言葉がとめどなく出てくるため、話す量が増えることがあります。また、早口で話すことも多いです。

4.睡眠の減少

少ない睡眠でもエネルギーがあるため、通常よりも少ない睡眠で済むことがあります。

5.多忙感

多くのプロジェクトやアイデアに取り組むことに強い興味を持ち、同時に多くのことを成し遂げようとする傾向があります。

6.冒険的な行動

リスクを冒して大胆な行動に出ることがあり、買い物や旅行などの突発的な計画を立てることがあります。

7.イライラや怒りの増加

躁状態ではイライラしやすく、小さなことでも怒りっぽくなることがあります。





躁状態の特徴7選一覧



躁状態とうつ状態の間隔

 双極性障害で躁状態とうつ状態の現れる周期には個人差がありますが、最初の躁状態とうつ状態の間は、4~5年程度の間隔があるのが一般的といわれています。

治療をしないままだと、悪化や再発を繰り返すほど3年間隔、2年間隔としだいに期間が短くなっていきます。
そうしてさらに悪化すると、1年以内に4回以上も躁とうつの周期を繰り返す「急速交代型(ラピッドサイクラー)」と呼ばれる状態に陥ってしまいます。
精神的な状態が安定している時期がほとんどなく、一晩のうちに躁やうつに転じることもあるなど、心身ともに大きな負担が生じます。





2.双極性障害はどのようにして起こるのか?

双極性障害の原因3選



 双極性障害の原因は明確にははっきりしていいませんが、遺伝的、生物学的、環境的な要因が関与していると言われています。

遺伝的要因

 双極性障害の遺伝的な原因は、複数の遺伝子が関与していると考えられています。
遺伝的な要因は発症リスクに影響を与える重要な要素であり、家族歴がある人ほど双極性障害を発症する可能性が高くなります
遺伝子の異常や変異が、脳内の神経伝達物質のバランスや神経回路の機能に影響を与え、双極性障害の症状を引き起こすと考えられています。

遺伝子の特定は難しいですが、双極性障害と関連する可能性がある遺伝子がいくつか同定されています。一例として、CLOCK遺伝子やBDNF遺伝子などが挙げられます。
これらの遺伝子は神経の成長や神経伝達物質の制御に関与する役割を果たしており、その変異が双極性障害のリスクを高めるとされています。



生物学的要因

 双極性障害の生物学的な原因は、脳内の神経伝達物質の不均衡や神経回路の異常が関与していると考えられています。
特にドパミンやセロトニンといった神経伝達物質の活動の変化が、双極性障害の発症や症状の発現に影響を与えるとされています。

ドパミンは快楽や報酬の感情と関連し、双極性障害の躁状態ではドパミンの過剰な放出がみられることがあります。
これが高揚感や興奮状態を引き起こす一因とされています。

一方、セロトニンは気分安定や情緒の調整に関与しており、双極性障害のうつ状態ではセロトニンの減少がみられることがあります。
このセロトニンの減少がうつ症状を悪化させるとされています。

また、脳の神経回路や構造にも異常が見られることがあり、これが双極性障害の症状に影響を与える可能性があります。MRIなどの脳画像検査により、双極性障害の患者の脳には特定の領域での異常が観察されることがあります。


環境的要因

 ストレスは双極性障害の症状を悪化させることがあります。
生活の変化や心身的な負担が、躁状態やうつ状態のトリガーとなることがあります。
特に過度のストレスがあると、双極性障害の症状が悪化しやすい傾向があります。

また、睡眠の変化や生活スケジュールの乱れも双極性障害の症状に影響を与える可能性があります。不規則な睡眠や生活リズムは、躁状態やうつ状態の原因となることがあります。*1)




双極性障害の原因3選まとめ



3.双極性障害の診断基準

診断基準を確認しよう

 双極性障害のある方の多くは、うつ状態を自覚することではじめて受診します。
躁状態にある時は本人にとって通常の状態であると思っている場合が多く、病気という自覚がないためです。

受診した際も、医師にうつ状態の説明はできても、病気と認識していない躁状態の説明ができることは、ほとんどありません。
そうしたことから、最初はうつ病と診断される場合が多いです。

また、先述の通り、躁とうつの状態の周期には個人差が大きく、中にはうつ状態から次の躁状態へ移行するまでの期間が5年程度あく場合もあります。
こうした病状把握の難しさから、正しい診断に行きつくまでに平均4~10年ほどかかってしまうといわれています。

詳しい双極性障害の診断は以下になります。




双極性障害の診断基準

参考:Ghaemi SN, Ko JY, Goodwin FK:The bipolar spectrum and the antidepressant view of the world. J Psychiatr Pract 7:287‒297, 2001

日常の初診時には、うつの症状がよく見られます。
しかし、その背後に双極性障害の可能性があることを考え、注意深い質問と家族などからの客観的な情報収集をすること重要です。
特に、抗うつ薬が効かない場合には、その理由を詳しく調べる必要があり、診断が正しいかどうかを振り返ることが大切です。

自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

症状チェッカー



*1)"Bipolar Disorder." Mayo Clinic, Mayo Foundation for Medical Education and Research, 7 May 2021, www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bipolar-disorder/symptoms-causes/syc-20355955.






4.双極性障害の治療

双極性障害の治療である、行動療法と薬物治療とは



 双極性障害の治療においては、薬物療法に加え、病気の悪化や再発を防ぎ、中長期的な状態の安定のために精神療法(心理・社会的治療)を組み合わせることが最も効果的です。


薬物療法

 双極性障害の治療では、薬物療法を行うことで、「寛解期」とよばれる躁状態でもうつ状態でもない安定した状態をできるだけ長く維持し、発症以前と変わらない生活ができることを目指します。
主に以下の薬剤を使用していきます。

  • 抗精神病薬(抗精神病薬)

    双極性障害の躁状態において、抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピンなど)が使用されることがあります。これらの薬物は躁状態を抑え、落ち着かせる効果があります。

  • 安定剤(抗てんかん薬)

    リチウムや抗てんかん薬(バルプロ酸など)は、双極性障害の躁状態やうつ状態の安定化に使用されます。これらの薬物は即効性に優れ、気分の変動を抑え、再発のリスクを減少させる効果があります。


薬物療法の選択は、患者の症状、状態、個人の健康状態に基づいて行われます。専門医の指導のもとで正確な診断と適切な薬物療法が提供されることが重要です。*2)

精神療法

 精神療法の主な目標は、薬物療法によって症状が落ち着いてきた後、症状の安定や再発防止を行うことです。
精神療法では、心理教育、考え方や物の捉え方、行動を変える精神療法である認知行動療法などを必要に応じて行います。

  • 心理教育

    双極性障害の特徴や症状についての正しい教育を行います。躁状態とうつ状態の違い、気分の変動のパターンなどについて詳しく説明されます。本人の治療へ積極的な参加を促せるように働きかけていきます。

  • 認知行動療法

    自己評価や物事に対する思考パターンを客観的に評価し、不健全な認知を修正することを目指します。例えば、自己否定的な考え方や極端な評価を持っていることを自覚し、適切なものに修正し、より現実的な見方を促すことがあります。


    双極性障害の治療法と種類のまとめグラフ


    *2) "Bipolar Disorder." National Institute of Mental Health, U.S. Department of Health and Human Services, www.nimh.nih.gov/health/topics/bipolar-disorder/index.shtml.





    5.双極性障害を乗り越えるためには?

     双極性障害を乗り越えるためには、適切な治療と自己ケアの両方が重要です。
    精神科医と協力し、薬物療法や認知行動療法などの適切な治療法を受けることが肝要です。
    また、規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠を確保し、ストレスを適切に管理することも大切です。
    自己の感情や気分変動に敏感になり、変化に適応するスキルを養いましょう。
    ただし、専門家の指導なしに自己判断するのではなく、必ず専門家のアドバイスに従うよう心がけましょう

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