統合失調症とは:症状や治療について解説

監修者紹介
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター
別府拓紀
大学病院、精神科病院、専属産業医などを経て現在精神科病院で地域の精神科医療に従事 精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、老年精神医学会専門医、公認心理師、スポーツドクター

統合失調症とは

 統合失調症は、ドパミンをはじめとした神経伝達物質の伝達異常により、幻覚や妄想、意欲の低下、認知機能障害といった様々な症状が現れる病気です。

100人に1〜2人が発症

人口のうち100人に1~2人が発症すると言われており、決して特殊な病気ではありません。男女の発症率に大きな差はなく、10代〜20代で発症することが多いです。


統合失調症の症状

統合失調症の6つの症状

 
 特徴的な症状として、「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」があります。

陽性症状

 陽性症状の「陽性」とは「本来あるはずのないものが現れる」という意味で、症状としては幻覚や妄想などが代表的な陽性症状です。[1]

・幻聴
人の声で、「はっきりとした悪口」が聞こえてくることが多くあります。統合失調症の場合は、自分の考えとは違うはっきりとした悪口が聞こえ、非常に怖い思いをすることがあります。

・妄想
「誰かに監視されている」や「ネットで噂になっている」といった、実際にはありえないことを事実だと思い込む被害妄想が代表的です。
妄想とは訂正不可能な誤った認識のことで、基本的には周囲が訂正しようとしても聞き入れられません。

・思考の障害:
自分の考えがとぎれとぎれになってまとまらなくなり、話している内容に一貫性がなくなります。さらに、考えが次から次へとわき出してコントロールできなくなり、考えをまとめることがさらに難しくなります。周りの人は、患者さんの言っていることが理解できず、その結果患者さん本人は、相手に理解してもらえないことへのつらさを抱えることになります。

・運動の異常
奇妙な動作や不自然な体の姿勢が見られることがあります。これは緊張病(カタトニア)と呼ばれることもあります。長時間動きが止まってしまう、動作が遅くなってしまう、同じ動作を繰り返してしまう、自発的な動きができなくなるといった体の動きが低下する症状を起こし、周りの人からは奇妙な行動に見られることがあります。

・自我の障害
自分と他人の境界がはっきりしなくなった結果、周囲の影響を受けやすくなり、自分の行動や考えは誰かに支配されているのではないかと感じるようになります


陰性症状

・意欲低下
目標を設定し、行動に移す意欲や動機が減少し、日常生活の基本的な活動(自己ケア、仕事、学業)に取り組むことが難しくなります。

・感情の平板化
感情が表にでず、表情が変わらない状態となります。表情がでにくいため、コミュニケーションが難しくなります。

・社会的ひきこもり
外に出ることが億劫となり、引きこもり状態となります。外に出ないため、症状が周囲からきづかれにくいことがあります。


認知機能障害

 統合失調症になると、融通がきかなくなる、一度に違う仕事を並行してできなくなるなど、いままでできていたことができなくなることがあります。

統合失調症の症状の中でも社会生活に影響を及ぼす可能性が高いものであり、それが本人にとって大きなストレスとなることで再発を繰り返す要因となってしまうこともしばしばあります。


統合失調症の症状6つ一覧







自分の症状がどんな病気に関連するか気になる方は、症状チェッカーで確認してみましょう。

症状チェッカー





統合失調症の原因と診断基準

 統合失調症はドパミンと呼ばれる神経伝達物質が大量に分泌された結果、幻覚や妄想に陥る脳の病気といわれています。
覚醒剤を多量に服用した際もドパミンが過剰に分泌され、幻覚を見るのは統合失調症と似た機序であると言われています。

ただし、どうしてドパミンが異常に分泌されるようになるかの原因はいまだに解明されていません。

親の育て方や環境が原因ではない

 発症は育った環境や親の接し方、生活上で起こった事件などが原因ではないと言われています。
また単純な遺伝病でもないと言われています。
今の段階では、原因は解明にいたっていませんが、研究が進んでいます。



統合失調症の診断基準

 日本でも多く使われる、アメリカ精神医学会の診断分類であるDSM-5分類では、「妄想や幻覚、まとまりのない思考あるいは発語、または異常な運動行動、そして陰性症状という五つの領域に、一つかそれ以上の異常がある」場合に統合失調症と診断されます。

具体的には以下の診断基準を満たすと統合失調症だと診断されます。

A. 以下のうち二つ以上、一ヶ月以上の間いつも存在する。そしてその少なくとも一つは①②③のいずれかである。

①妄想

②幻覚

③まとまりのない発語

④酷くまとまりのない行動

⑤陰性症状(抑うつ気分、意欲の低下など)

B. 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で一つ以上の機能のレベルが病前に獲得していうた水準より著しく低下している。

C. 障害の持続的な徴候が少なくとも六ヶ月間存在する。

D. 統合失調症感情障害と、「抑うつ障害または双極性障害など精神病性の特徴を伴う」が除外されている。

E. その障害は、医薬品または医学的疾患の生理的作用によるものではない。






統合失調症の診断基準5つ一覧




統合失調症の治療

統合失調症の治療法とは?


薬物療法

 統合失調症の原因として、ドパミンの過剰分泌が大事な要素なので、基本的には抗精神病薬と呼ばれる、以下のようなドパミンをキャッチする受容体をブロックするお薬を使用します。

SDA:リスペリドン、ブロナンセリン、ペロスピロン、ルラシドンなど

MARTA:オランザピン、クエチアピンなど

DSS・SDAM:アリピプラゾール、ブレックスピラゾールなど

副作用として、錐体外路症状と呼ばれるパーキンソン症状(手の震え、仮面様顔貌、アカシジア等)や、過鎮静、代謝障害、糖尿病などの疾患に罹ることもあります。
これらの副作用を自覚した時は、主治医に相談しましょう。
薬の量を調整したり、種類や組み合わせを変えたりすることで、副作用を抑えることが可能です。

統合失調症の薬物治療は意外に難しいことが知られています。

お薬もなかなか効きにくく、また統合失調症の患者さんは幻覚や妄想の症状に苦しんでいるため、治療者や家族のことも敵に見えてしまうこともあり、「この薬には毒が守られているのではないだろうか」と、いてもたってもいられなくなる状態に陥ってしまい、入院に至るケースがよくあります。

行動療法

入院中に実施するのは、薬物療法以外に、以下のような行動療法があります。

・心理療法
認知行動療法(CBT)、支持療法、家族療法などの心理療法が統合失調症の治療に役立ちます。これらにより、感情の制御やストレスの軽減だけでなく、日常生活や社会参加に必要な能力の回復・維持が期待できます。

・リハビリテーション
統合失調症の患者には、日常生活のスキルや職業訓練、社会的スキルの向上をサポートするリハビリテーションプログラムが提供されることもよくあります。

・心理教育
心理教育とは精神障害の発症といった簡単には受け入れづらい問題を持つ人たちに、心理面への十分な配慮をしながら正しい知識や情報を伝えること、病気や障害の結果生じる困りごとに対処する方法を修得してもらうこと、知識や対処方法を使って当事者が主体的な療養生活を送れるように支える方法です。
患者さん本人や、患者さんの家族に向けた心理教育とサポートは、統合失調症の治療において重要です。

一般に、行動療法単体で統合失調症の症状が軽減することはあまりないと言われています。
しかし、行動療法により、統合失調症の患者さんと家族、そして医師の間に協力関係を築きやすくなる可能性があります。

こうした関係の中で、患者さんは自分の病気のことを理解して対処し、処方通りに定期的に抗精神病薬を服用し、病状を悪化させる可能性があるストレスに対処する方法を学ぶことができます。






統合失調症の治療3つまとめ


社会復帰は困難?

 統合失調症は、社会復帰が困難になることも稀ではありません。

障害者枠で働く、就労継続支援施設A型・B型などのいわゆる作業所で働く、デイケアに行く、それも難しい場合は訪問看護を入れる。

経済的な問題がある場合は生活保護を取るといったこともあります。

しかし、統合失調症から仕事に復帰することも充分可能です。

社会復帰のために、まずは医師の診断を受けて、自己判断で薬の服用をやめたりしないことが大切です。
その上で、焦らずに統合失調症からの回復に努めましょう。
社会復帰を具体的に考えるのは、就労を検討しても問題ないという医師からの判断が下りてからにするのが賢明でしょう。

社会復帰への準備を進めていく段階では、一人で抱え込まずに、ぜひご家族などの身近な人や、支援機関の支援員を頼るようにしましょう。






統合失調症に関するまとめ

統合失調症に関するまとめ

 ここまでの記事の中で特に重要なポイントをまとめていきます。

  • 統合失調症とは、幻覚や妄想といった症状をはじめとした様々な精神症状が現れる病気。比較的再発率が高く、100人に1~2人が発症すると言われている。
  • 発症の原因として、育った環境や親の接し方、生活上で起こった事件などはあまり関係がない。また単純な遺伝病でもなく、現在も発症のメカニズムに関して研究が進んでいる。
  • 症状は陽性症状と陰性症状に分けられる。妄想や幻覚といった陽性症状は急性期に見られるのに対し、感情の平板化や社会的引きこもりなどの陰性症状は、慢性的に見られることが多い。
  • 難しい病気だが、社会復帰のために、まずは医師の診断を受けて、自己判断で薬の服用をやめたりしないことが大切。


昔は統合失調症になると一生回復しない病気と考えられていた時期がありました。

しかし、効果的な薬が次々と開発され、対人関係や社会生活を円滑にするリハビリテーションも盛んになりました
今、統合失調症は十分に回復する病気となっています。

症状が激しい時は、奇妙な行動や興奮などの状態になることがあるため、「何をするかわからない」と思う人も少なくないようです。

たしかに、犯罪の全体から見れば極めてわずかな数ですが、統合失調症の人が法に触れる行為をすることがあります。
しかしそれは一部であり、正しい治療を受けていれば犯罪を起こすことはないのです。

まずは周囲の人が病気について理解して、患者さんに思いやりを持って正しく接することが大事です。



参考文献

[1]American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5). Fifth edition. American Psychiatric Publishing.

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